私は第一東京弁護士会で成年後見に関する委員会に入っています。
同委員会では以前から「成年後見に関する実務Q&A」を出版していて、私も著者の1人に加わっています。
このたび、その本の内容を一部改訂しようと、ここ数か月にわたり論議をしています。
昨日もその会議が弁護士会館で行われました。
昨日は紛糾しました。
そのテーマが、成年被後見人の死亡後の後見人による預金引き出しができるかについてでした。
法律上明記はされていませんが、被後見人の死亡により後見は当然に終了します。
そのため、被後見人の死亡後は後見人はもう後見人ではなくなり、後見人としての権限をすべて失います。
ですから、元後見人が被後見人の預金を引き出すことは法律上できません。
そして、金融機関も被後見人の死亡を知ったら、口座を凍結し、相続人全員の同意を得るまで引き出しには一切応じないのが通常です。
ただ、病院への支払いが残っている場合、支払いがまったくできないとなるのも不便であり、預金を引き出して支払う方策を見つける必要もあります。
そのため、何とか支払いができないか、散々議論しました。
これは1つの意見です。
法律上、被後見人の死亡は後見の絶対的終了事由だから、どう転んだって死亡後に預金引き出しを行うことはできません。
死亡の事実を銀行が知らないうちに元後見人が引き出してしまえば、事実上は可能でしょうが、それはやはり法律的には違法と言わざるを得ません。
ただ、被後見人の容態が悪い時期(存命中)に、緊急の支払いがある場合には、「急迫の事情があるとき」の必要な処分として預金の引き出しをして、支払いをできる場合もあると考えられます(民法874条による654条の準用)。
そうすることが法的にも違反がなく実際の要請にかなうのではないかと思われます。
この問題は実務上とても問題になる割には、ちゃんとした解決がないので困ってしますが。
(小倉)